第1回 パラ選手が競技を続ける環境 1/3

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【短期集中連載】

第1回 パラ選手が競技を続ける環境

 五輪に続き9月6日から開幕する北京パラリンピック。リハビリや生涯スポーツ的な色彩もあわせ持っていた障害者スポーツの大会から、近年はより競技性を重視した、五輪に併せて開催されるエリートスポーツの大会へと、パラリンピック(以下パラと略)の性格は変わってきた。そんな中で、競技を続けている、北京パラに出場する日本水泳チームの選手達に、これまで、そしてこれからの競技をめぐる思いを、ざっくばらんに語っていただいた。(この座談会は2008年6月14日に行われたものです)

健常者と一緒に泳いできた

――ではまず最初にクラスとお名前を。
河合:S11の河合純一です。
_MK3L0546河合.JPG河合純一(視覚障害)33歳。バルセロナ大会からパラ出場は5回目。多数のメダルを獲得している。浜松市立舞阪中学校の教師からこの春静岡県総合教育センターに異動。木村:S7の木村潤平です。
小山:S6の小山恭輔です。
江島:S7の江島大佑です。
山田:S9の山田拓朗です。

木村:まずは競技性についてですかね。ざっくばらんに。
――はい。例えば、健常者と一緒に水泳をやっていての受け止められ方、これまで、そして今後はどうなっていくのか、陸上のオスカー・ピストリウスのような現れ方をどう感じておられるのか、などなどを…

江島:結構難しいですね(笑)。じゃあ、その、はじめの切り口から。
――江島さんは、健常者の選手と練習されていて、例えばモチベーションについてなど、思っていることと違うことを言われることはありますか?
江島:それは障害の有無ということで?
――そうですね。

江島:基本的に、3歳から水泳始めて、中1まで健常者と一緒に京都イトマンスイミングスクールで普通に泳いでて。中1で病気して障害者になって。別に抵抗や「障害者だから」って感覚は全くなくて。まわりも「障害あるから練習軽めでいいよ」ということは全くなくて「障害者だからって甘やかせへんぞ」みたいな中でずっと育ってきました。
木村:オヤマくんとかは?
_MK3L0569小山2.JPG小山恭輔(右上下肢機能障害)20歳、今回パラ初出場。日本社会事業大学3年生。
小山:自分も同じように、中2のとき倒れたんですけど、自分も水泳やってて「障害者」って言われたことは、あまりなかったかな。でも今、東京体育館で普通の人と一緒に練習してて、そのときの目っていうのは気になりますね。
木村:気になるんだ(笑)
小山:こちらが泳いでると(他の人が)コースから外れていくんですよね…。
木村:それは速いからなんじゃないの?
江島:うん、速いからだよ。
木村:タクなんかはどうなの? コナミで。
山田:コナミスポーツクラブ三田では、ぼくは健常者の選手コースと全く同じ練習メニューをとっているので、泳いでいてほかの人がどっか行くとかいうことはないですけど、メニューは全く同じです。


パラの競技性を考える

木村:五輪と同じように競技性を持っていきたいか、っていうことについてなんですけど。
河合:今、競技性あるじゃん。(障害のクラス分けごとに与えられる)メダルを1個にするか、っていう話? 
木村:そういうところですね。環境の問題とか… _MK3L0560潤平1.jpg木村潤平(両下肢機能障害)アテネパラに続き出場2回目の23歳。東日本電信電話株式会社勤務、社会人2年目。
河合:環境と競技性は一緒なのか?
木村:その環境によって練習できないってことは、競技性がないってことじゃ…
河合:競技性は競技性で環境は環境だろ? リンクはしてるだろうけど、同じじゃないとオレは思うけど。競技性が高まれば環境が良くなるという考え方もあるだろうし、でも社会の理解が広まったって環境は変わるわけでしょ?
木村:そうですね。
河合:だから、環境を変えるアプローチのしかたはいくつかあって、そのひとつが競技性を高めるって考え方なんじゃないか?
木村:その競技性って、どうやって高めるんですか。
河合:競技性を上げる方法は何かって話ならまた別の議論をするけど。
木村:環境が一つだとして、他には…
河合:環境をもっと細分化すればいいんじゃない? 例えばメディアの露出を増やすっていうのもそうだし。まわりが知ることによって、企業が、スポンサードがつくようになって、いろんな条件がスパイラルになって変わっていく可能性はある。あともう一個は逆発想で、国が完全に(面倒を)見る。
木村:イギリスとか…
河合:中国とかな。国家予算をつけてガツンとトップダウンでやる。世の中の変え方って、トップダウンかボトムアップの2種類で。あるいは民間からか、行政的な方からか、そういう2パターンでどうするかってことなんだけど。
木村:具体的に、策とかあるんですか?
河合:タイムを出して結果を出すことがまず一番重要なんじゃないかと思うよ。だから、今の環境は苦しいよな。いろんなことが。認められていない…ことはないんだけど、昔に比べれば。でも、楽じゃない。それでも結果を出す。語る場が増えるから、そこで伝えていくのを、正しく繰り返していくしかない。黙っていても駄目だし、だからって「今こんなにひどいから」って言い続けているだけでも、一歩引いた人たちから見たらさ、「障害者は文句言ってるだけなのか」って映るから。
木村:そのひとつの環境作りとして、例えば自分やダイスケは企業に入って、仕事を早く上がらせてもらったり、費用を出してもらったりしてるわけじゃないですか。企業から行くとしたら、トップダウンってことになるんですかね。
河合:企業っていう社会の中ではそうだろうね。上が理解するからOKが出るわけじゃん。
木村:それを取り込んで、各企業にスポンサーになってもらうようアプローチしていくとか。
河合:それは、君らの各企業内での貢献によるんじゃない?
木村:ですよね。ダイスケも自分も「結果を」と言われてるんですけど。
河合:企業にとってプラスだと思ってくれれば。例えば日立(株式会社日立システムアンドサービス)がノルディックスキーのスポンサーについてる。あと、アイススレッジとか冬の競技に、ついてくれてるわけだよね。それは、選手たちがよく(媒体などに)出るのを評価してくれてる。例えば30分のドキュメンタリーに選手が出たとするよね。広告料として企業が出したらと換算して、効果があると思ってくれれば、のってくれるわけでしょ。そういう努力をするしかないんだよ。
木村:そうなると、たとえばタクとかが今、どういう方向で障害者水泳を発展させるか…
河合:タクにはまだその質問は難しいと思うよ、学生だからさ。タクはさ、今、少なくともひどい環境じゃないよな。泳げる環境があって、そう遠くないところでいいコーチもいて。今タクが更に求めるとしたら何?
_MK3L0547対談二人.JPG
山田:練習に関しては、今のところ結構満足していますね。
河合:多分お金だと思うんだよ。合宿とか、物とかさ。
山田:そうですね…。
木村:そこは自分で全部負担してるんだよな、タクは。
河合:企業がそれだけわかってくれるか、新聞にそれだけ出せるのか、って。ただタクの場合は現役学生だから、プロにはなりようがないわけだ。(ゴルフの)石川遼とかは別だけど…。そういう制約がどうしてもあるから難しいと思うけど。
木村:じゃあタクは… 先もあるわけじゃん、大学生とか。そのときどういう形を作っていこうとしてるのかと思ってさ、タクが。
山田:できることならスポンサーとかつけてもらって、遠征とか合宿とか、お金の面でサポートしてもらえると、もっといいと思いますけど…
河合:それを個人でとるのか、日本障害者水泳連盟でとるのか、JPC(日本パラリンピック委員会)でとるのかっていうのも、また別なわけだよね。五輪はJOCがとって、ランクによって出すわけじゃん強化費で。
木村:そうですね。
河合:そういう制度ができるのか、とか。toto(スポーツ振興くじ)の助成金とかも大きいわけで。
木村:イギリスなんかそうみたいですね。「国から」っていうより、世界ランキング1位の人には、そういうところからお金が出て。
河合:海外は宝くじの販売権が障害者団体にあるんだよ。売り上げが障害者スポーツとか社会参加の活動資金として担保されてるんだよね。

五輪が目指す姿なのか?

木村:ダイスケとかも、会社入って、企業内でやってるじゃないですか。
河合:ダイスケもジュンペイも入ってるけど、五輪と同じ状態じゃないでしょ。
木村:まあ、もちろんそうですね。
河合:それを、五輪と同じ状態を求めたいのかにかかわってくるんだよ。多分君たちのおかれている状況は、社会人の実業団レベルの対応だよね。
木村:そうですね。
河合:ラグビーの人だったら、(仕事を)午後上がりで、所属して仕事しながら経験を積んでもらって、いずれは会社に貢献してもらえるよう、今はスポーツの方で頑張れる限りやってもらおうというスタンスでしょ。
木村:そうですね。
河合:そういうところをどうするかって、ダイスケだけでなく、みんなが考えなきゃいかんことだよね。
木村:ダイスケはどう? 企業内で。
河合:入社して2カ月半。
江島:厳しいすね。
木村:でも、水泳やってるから早く上がれたりしてるんじゃないの?
江島:でも、北京までだから。北京後のことを考えたら、わからへん。
木村:そこの環境って、結果次第で変わったりするの?
江島:うーん、変わるかもしれんし… わからへん。
木村:トップがうんって言えば変わるんじゃないの?
江島:今はとりあえず、結果残すしかないかなあって。
河合:そういうところをみんなそれぞれ意識を持たないとね。戦略を。

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